にし阿波の花火 全国花火師競技大会〜徳島県三野町

徳島で花火師競技大会が行われることを知ったのは6月頃だっただろうか。
去年、極秘に徳島市内で小規模ながら花火競技大会が行われていたことを後で知ったが、
まさかそれが本格的に始まろうとは思ってもみなかった。
開催が決まった時はまったく詳細は不明で、
ただ有料席やカメラマン席は標準レベルを超えた価格設定でとてもじゃないが手が出せれる金額ではなく、
それでも発売してまもなくして完売したのは想定外だった。
その後、河川の申請許可が下りてないだとか、
漁協組合が反対しているだとか、開催場所が変更されるとか、
本当に開催されるのかさえ疑わしくなりつつも、
開催は10月とまだまだ先なので詳細を待ちながら時間は過ぎていった。
その後、無事に申請許可も下りてオフィシャルHPも公開されて、
徐々に詳細が公表されていった。
開催時に向けて撮影場所の候補地や駐車場などネットやグーグルビューなどで探すのが日課となっており、
駐車場も有料観覧席用しか設けていないので、
近隣のコインパーキングを探したがそれらしき駐車場は無く、
かなり手間ではあるが東みよし町の公共施設に車を止めて、
最寄りの駅から江口駅まで電車移動して現地入りする計画を立てた。





10月5日当日、数日前の大雨で吉野川の増水が心配されたが、
前日の晴天のお蔭で会場の準備は着々と進んでおり、
当日は朝から眩しい日差しと青空でまさに絶好の秋の空だった。
久しく徳島には行ってないので、どうやって行こうかと考えたが、
しまなみ海道よりも瀬戸大橋の方が400円ほど安いので、
8時30分頃に出発して交通費削減のために下道で会場を目指す。
高速道路ならノーストップで2時間ほどで着くので山口へ行くことを考えれば、
案外徳島は近いのだと今更ながら気付いた。
土曜日の午前中ということもあって道路も特に渋滞しておらず、
スムーズに四国へ渡り、国道32号線を南下して徳島入り。
猪ノ鼻峠に新しくトンネル工事が行われていたので、
数年後にはアクセスが楽になるかもしれないが、
険しい山を越えて標高の高い山にある集落を見ながら峠を越えないと、
何となく徳島に来たような気がしないのでトンネル工事は嬉しい反面、ちょっと寂しいかもしれない。

12時30分、さすがにこの時間帯だと県道12号線も混雑は無く旧三野町に入り、
とりあえず早めに着いたので会場周辺を現地調査してみる。
撮影候補地の1つである会場裏へ行ってみると、
誰1人としてカメラマンの姿は見かけずちょっと安心。
距離として800mほど離れているが、
正面から狙える好ポイントだと推測していた。
ただ実際に状況を見ると目の前に生い茂った木々と何も無い前景にどうもしっくり来ないので、
裏側へ行ってみて最終的に判断することにした。



国道192号線へ移動してもう1ヶ所目星を付けている場所へ行ってみる。
現地までの道のりは狭い道路なので車での乗り入れは極力控えて、
国道192号線の路肩へ止めて現地へ向かう。
国道192号線は規制対象となっており路駐禁止の三角コーンが並んでいたが、
さすがにこの時間帯だと警察も警備員の姿も見かけない。
お目当ての場所は幸い殆ど場所取りがされておらず、
とりあえず場所だけ押さえておくことにして、
最終調整は周りの状況を見ながら判断することにした。
先ほど行った会場側と比べてみると、
筒場の視野が見えるのと距離が近い、そして比較的正面ということからこの場所、
花火愛好家用語でいう「裏」から狙うことに決めた。







さて場所取りもひと段落したところで、
腹ごしらえを兼ねて東みよし町へ向かおうと車を走らせていると、
何と1000円で止められる有料駐車場を発見。
しかも会場から比較的近く、13時30分を回っていたがまだ余裕があったので迷うことなく止めさせてもらった。
2人分の電車賃と移動時間を考えると1000円では安いくらいで、
もし3000円の値段設定でも止めていたかもしれない。
もしかしたら個人でどこか駐車場があるかも?と淡い期待はしていたが、
これは本当に想定外の偶然であり奇跡であった。
まだ時間的に早いので車でどこか昼食を済ませても良いですよ、というご厚意に甘えて近くのコンビニで買い出し、
その後、14時30分まで車の中でしばし休憩した。



現地の状況が気になるので少し早いが撮影場所へ向かう。
先ほどまで誰もいなかったが、15時の時点でたくさんのカメラマンで賑わっており、
よくこの場所に気付いたと感心するが、考えることはみんな同じだったのかもしれない。
ただ目の前には視野を妨げる木々もあれば電線もあり、完全に開けた視野は見つけられず、
もしかしたら私有地に入ればあったかもしれないが、地主と交渉するだけの気力は無く、
結局、最初に確保した前景の木々が邪魔な場所でそのまま落ち着いた。


※左:目の前の木々が邪魔。真ん中:目の前に電線が・・・。右:会場を見渡せる良い場所だがやはり電線が。

その後、周辺を散策しながら場所を探してみたり、
カメラマンと他所の情報交換しながら談笑したり、のんびり秋の晴れた空を見ながらのんびり過ごした。


※角度が付いているが場所的に悪く無い


※国道192号線は路上駐車禁止。路肩に止めていても駐禁の取締り対象とされていた

メイン会場の状況が気になるところだが、
遠目で見ると会場はのんびりしているようだが、噂によると会場周辺は相当混んでいるらしい。
確かに会場周辺に駐車場を設けていれば混むのは当然であり、
何も知らずに会場へ向かう人が多ければ多い程、駐車場難民で溢れかえるに違いない。
旧三野町は静かな街なので車を止める路肩はそれなりにあるが、
そこに車を止めた人は容赦なく駐禁の取締りの餌食になっていた。
その魔の手は集落の狭い道まで広がっていたらしい。
そんな状況の最中でも時間が経つにつれて人は次から次へやって来る。
気付けば大勢のカメラマンと見物客で一杯で、
みんなどこでこの場所を知ったのだろうか。
あまりにも混雑が酷いと地元住民からクレームが来れば来年以降は規制対象になるのが心配なので、
少なくともゴミだけは出さないようにしてほしいと願う。
それでも地元住民にとっては普通に生活しているので、
車で移動しようものなら目の前に立ちはかる花火客は邪魔で仕方なかったに違いない。



夕方になって日も陰り昼間の暑さが嘘かのように寒くなって来た。
それなりに風が吹いているようだが裏の山のお蔭で体感的に寒さは凌げたのかもしれない。
実は公式HPにも花火競技大会が何時から始まるのか記載されておらず、
大雑把に18時〜20時30分とだけ記載されていたが、
まだ明るい18時に当然のことながら花火が上がる訳がない。
会場では主催者や来賓の挨拶が行われており、
その後、オープニングアクトで赤松煙火保存会による吹筒花火が披露された。
これはプログラムにも記載されていないサプライズ演出だったようで、
500m離れた場所でも綺麗な火の粉の美しさは伝わったが、
徳島の伝統花火をまじかで見れた会場が少し羨ましかった。
誰からかの情報で競技大会開始は19時00分と判明。
しかし想定外の渋滞で有料席の空席が目立つことから10分遅れて19時10分から競技大会は始まった。



競技大会に先駆けてオープニングを齊木煙火本店が披露。
いつか齊木のワイドスターマインを見てみたいと思っていたが、
まさかここで早くも実現するとは夢にも思ってみなかった。
10日前くらいにプログラムが発表され、
その内容を見てまず有り得ないと思った。
徳島の地元業者である市山、岸を始め、
西日本ではまず見ることが出来ない、というか自分の知る限り打上の実績が無い齊木煙火本店や野村花火。
三遠煙火や丸玉屋小勝煙火店もミュージックスターマインを披露するようになっている。
菅野や信州も東日本まで足を運ばないと見る機会はまず無いだろう。
この豪華なメンバーを揃えて花火競技大会を実現させた主催者はかなり勉強して研究して1社1社交渉したに違いない。
もちろん都合が付かず不参加した業者もいたと思うので、
本来なら競技大会ならもっと大勢の業者が参加しても良さそうなものだが、
それでも八代や土浦を凝縮させた、にし阿波の花火らしい競技大会だと思う。
これほど豪華なプログラムを見たことが無い。
唯一のんびり観覧出来ると思っていたメッセージ花火でさえ、
アルプス煙火店がサプライズで参加しており、レリーズを手放せなかった。
一応、横と縦の2台態勢で撮影に挑んでいたが、
ワイドプログラムでも大玉が上がれば縦ですっきり収まり、
大玉が上がらない時は横で狙っていたが、
少し角度が付いていたのか横の出番はあまり無かった。
アナウンスは良く聞こえたが花火が上がると音楽があまり聞こえず、
これは風向きのお蔭でもあるが裏観覧の悲しい宿命であった。

10号玉は28mmでは収まらないかと思ったが、
500m離れた場所は10号玉を撮るにはちょうど良い距離感で、
筒場から開花上空まですっぽり収まった。
個人的には小勝煙火店の市松模様花が良かったが、
野村花火の五重芯があまりにも見事に決まったのが優勝の決定打になったかもしれない。
スターマインは各社とても工夫されており、
時期的に菅野と齊木がハロウィンにちなんだ花火で勝負していたが、
ここでもやはり野村花火が群を抜いて素晴らしかった。
審査員と会場にいる人により10号玉とスターマインに票を入れることで出場業者の順位が決まる方式になっており、
令和元年第一回目の優勝は野村花火に輝いたが、
個人的にはどれも甲乙付けがたく、本当に素晴らしい演出を見せてもらえた。

競技大会が終わるといよいよ野村花火が担当するテーマファイア。
上がるまでどのような演出かわからなかったが、
映画「天気の子」の曲に載せてワイドスターマインが披露。
ここでもまた野村花火のワイド演出が見ることが出来てもう思い残すことは無い。
むしろここは本当に四国なのか。
四国で何故どうしてこのような花火が見れるのか、
もはや夢なのか現実なのかわからなくなってきた。
にし阿波の花火、最後を締めくくるのは地元業者の岸火工品製造所。
ここ最近では高松、神戸など大きな会場を担当しているので大トリを任せられたのだろう。
他社製の玉も使って見事な最後を飾った。
煙は下流の東側へ常時流れて行き、
これだけボリュームのある演出も全編クリアに見えたのは、
主催者の狙い通りこの場所の特徴なのか、それとも偶然の奇跡なのか。

煙待ちなどの時間もあったのか、
19時10分に始まって終わったのは20時50分頃とかなりの長丁場だった。
終わってみればあっという間で、
あの時、あのようにシャッターを切れば良かったなど後悔しっぱなしだが、
そんなことはどうでも良かった。
今でもまだ夢の中にいるようで終わった後もしばらく放心状態の中、
会場から一面に輝く灯かりの交流をこちらからも返した。
周りのカメラマンも今まで見たことの無いような玉や演出を見て圧倒されていたように見える。
そりゃそうだろう。
まず西日本で見ることの出来ないような花火が目の前に繰り広げられているのだから。
にし阿波の花火がどこでも見れると勘違いされると困るが、
逆に近場の花火が物足りなくなるのではないかとちょっと心配してしまった。
この花火競技大会が切っ掛けで、
四国各地の主催者が花火大会に力を入れて、
遠方から花火業者を呼んだり、演出や内容に力を入れてもらえたら嬉しく思う。

車を止めているところが混雑地帯から離れていたお蔭で、
特に渋滞らしい渋滞に遭うことも無くスムーズに帰ることが出来た。
と言っても帰りの高速は使わず坂出で遅い食事を取って、
家に戻ったのは翌日の2時過ぎだった。




写真館 二千年一夜