黒井城跡の雲海〜兵庫県春日町

何かの記事を見て以来、黒井城跡の雲海に魅了されて今シーズンに撮りに行きたいと思って焦点を合わせていた。
当初、砥峰高原のススキと合わせて計画を立てていたがタイミングが合わず気付けば紅葉シーズンに突入。
いつか撮ってみたいと思っていた天滝がちょうど見頃を迎えており、
天候も雲海が発生する条件と重なり11月第一土曜日に出発を決めた。

黒井城跡までの道のりは決して近いとは言えないし、
兵庫県を走り慣れていないこともあり何度もルートを検討した結果、
山陽道で姫路東まで走り、下道で加東経由で北上する。
舞鶴若狭道路を利用して春日インターまでノーストップで行くことも出来るが、
夜間移動するのなら姫路から下道で行っても苦にはならないし、
過去にそのルートで西脇市まで行ったことがあるので安心感はある。
家から姫路までの国道2号線はたとえ深夜でも信号や交通量が多く時間がかかるため、
この区間だけは山陽道を利用して楽をさせてもらう。





1時過ぎに家を出発。
難なく姫路まで山陽道を走り国道372号線を走って加東から北上。
国道175号線を北上して西脇市を過ぎると丹波市となり、
約4時間くらいの道のりだったが意外とあっという間のように感じられた。
肝心の霧は西脇市を過ぎた辺りからチラホラ出ていたが濃霧というほど出ていないが期待は出来そうである。
昨日の最高気温が20度前後で現在の気温が10度を下回るくらい。
風もほぼ無く車のフロントガラスが結露している状況から雲海になる条件は完璧に揃っていた。
これで雲海にならなければ運が無かったと諦めるしかない。
山道だった国道176号線も春日町内に入ると深夜営業をやってる店やJRの駅もあるちょっとした街となり、
しばらくして黒井城跡の案内板を目印に住宅街にある登山口へと入っていく。


※下山時に撮影。入り口にはあちこちに熊注意。

登山口の駐車場に着いたのは5時を少し過ぎた頃。
周辺にはコインパーキングがたくさんあったが、
無料で止められる駐車場もある。
この時期だと一番近い登山口の駐車場が満車になっているのでは?と心配したが、
幸い1台だけ先客がいて助かった。
ここから離れた駐車場でも良かったがなるべく無駄な体力と時間は使いたくない。
とりあえず少しだけ時間に余裕があるので朝ごはんを食べて早朝登山に備える。
先客はどうやら車内で待機しているようでまだ動く気配はない。
実は黒井城跡の登山道で今年の6月にクマが発生して登山者が襲われる事故があった。
まだ日が上がっていない暗い時期はまさに野生動物の行動時間。
ましてや単独行動での登山はクマと遭遇する確率がかなり高い。
もちろん自分も単独で上がる勇気は無いので、
黒井城跡登山を日課にしている地元住民を頼りに一緒に同行させてもらう作戦を考えていた。
どうやら先客の人も同じ考えだったようで、そうこうしているうちにどこからとなく灯りと鈴の音を響かせた人がやって来て、
かなりのベテランなのか暗い山道を何のためらいも無く進んでいった。
このチャンスを逃すまいと急いでその人の後を付いて灯かり1つない山道へと入っていった。



山頂の本丸までのコースは、急坂となだらかの2通りあるが迷うことなくなだらかを選ぶ。
気付けば早朝登山者も増えてきて、
あちこちから灯かりや鈴の音が鳴り響き恐怖心も無くなり何とも心強い登山となった。
なだらかなコースといえば平坦な道は無く、岩や木々の根っ子といった自然の階段を上がっていく。
しばらくすると急坂コースと合流して石踏みの段跡まで来たら山頂まであともう一息。
睡眠不足と運動不足で体力に限界が出てきたが、うっすら見える雲海を見て俄然やる気が出て来た。
なだらかなコースと言いながら結構な坂道だったが、
石踏みの段跡を過ぎると山道も急勾配となり一気に体に負担がかかる道のりだったが、
それよりも雲海が見れる楽しみに不思議と体が軽く前に進めたような気がした。



登山口から約40分くらいで無事にクマに遭遇すること無く本丸に到着。
急坂コースから上がってきた人もいたのか既に数名の登山者に追い越されていたが、
それでも試合に例えるなら入賞レベルの順位であった。
正直言って春日町内に入った時は殆ど霧が無かったので雲海らしい雲海は期待出来ないかと思ったが、
日の出前の冷え込みで一気に霧が発生して流れ込んできたのか、
春日町の周辺は雲海となって今にも春日町を呑み込む勢いである。
春日町の街灯りがはっきり見えるので急いで撮影態勢に入る。
山頂の本丸まで上がると360度どこからでも見渡す絶景だが竹田城跡のような山城らしさを出すにはちょっと難しく、
写真を撮るなら三の丸が春日町を眼下に俯瞰出来て絵になる。
二の丸からも捨てがたいがやはり個人的には三の丸からの景色が好みだったので、
ここで太陽が上がるまで集中して撮影することにした。



今日はかぎろいが出るくらい最高に心地良い澄み切った青空が広がっていた。
眼下には雲海が広がり若干見え隠れする春日町の夜景がアクセントになって最高のシチュエーションだった。
そんな夜景も次第に雲海に呑み込まれていった。
それにしても素晴らしい雲海の景色。
そう思えたのは黒井城跡山頂が標高356mとかなり低く、
これが広島の山間部だったら一瞬にして霧の海に呑み込まれていた。
地元の登山客でも今日は珍しく霧が低いと言っていたからこの景色に出会えたのは運が良かったということになる。
6時40分、太陽が顔を出したところでしばらく撮影の手を止めて城跡を散策。
気付けば本丸には30名以上の登山客が暖かい飲み物を片手に談笑していた。
きっと殆どの人が常連で早朝から雲海の写真を撮る人の方が珍しいかもしれない。
確かにクマの遭遇や40分近くかかる登山を考えればリスクは高い。
ちょっと足を延ばせば竹田城跡など有名な雲海スポットなど、
気軽に撮れる場所はたくさんあるのでわざわざ黒井城跡で上がる必要はない。
でもたくさんある雲海スポットの中でも黒井城跡は今まで見て来た中でも最高位のレベルと言っても良いかもしれない。



太陽が少し上がった所で再び撮影。
もう同じような写真を量産することになるとわかっていてもつい撮りたくなってしまう。
適度に撮影を切り上げてそろそろ次の撮影地に行かなければならないのだが、
いつまでもこの景色を見ていたい。
そう思うとなかなか下山出来ないでいた。
降りるのも時間がかかるしクマに遭遇するリスクもあるので7時30分、他の下山者を見つけて一緒に降りた。
道中一緒になってクマの鈴避けは効果あるのか?という話になり、
話によると今年の6月に襲われた登山者は子熊だったようで、
成長したクマは鈴に反応して逃げていくが子熊は興味本位で近寄って来るのだとか。
鈴をしていてもクマに襲われる説はそういう経緯があるようだ。
結論から言えば、鈴を付けていてもクマと遭遇するが、
親熊より子熊と遭遇した方が怪我の程度は浅いので鈴を付けた方が良い、という話をしているうちに駐車場に戻ってきた。




猿尾滝〜兵庫県村岡町

8時00分、無事に登山口に生還。
何とかクマに遭遇することも無く戻ることが出来た。
春日町内はすっかり霧に包まれて辺りは真っ白だが太陽の日差しで明るくなっている。
そんな霧の中でも街はすっかり通常モードで仕事に出掛ける人や部活に行く学生達を見かけた。
丹波市から舞鶴若狭道路を利用して一気に八鹿氷ノ山インターまで移動。
一部区間だけ有料だがほぼ無料路線なので時短移動が出来て助かる。
移動中、各地で雲海が見え隠れしてこの様子だと標高の高い山ならどこでも雲海が見れたに違いない。
久しぶりに竹田城跡にも行ってみたいが以前に比べると登山規制が厳しくなったのでどうしても足が向かなくなった。
天滝に寄って猿尾滝に行けば良いがそれだと逆走することになって無駄に燃費を消費するので先に猿尾滝へ寄ることにした。



9時40分、猿尾滝に到着。
今年の5月に訪れたばかりだがさすがに秋となると景色も随分変わって見える。
滝百選であるが観光客はほぼいなくて駐車場も空いているが売店はコロナの関係で閉まっていた。
ここの滝は午後の日差しで虹が出るという話だが、
ということでこの時間帯に来たところで日差しがまったく当たっていなかった。
考えればわかりそうなものだがつい燃費を優先してしまったのが仇となった。
紅葉も日差しが当たっていれば綺麗に感じたかもしれないが、
さすがに日差しが当たっていなければ水量も少なく感動はほぼ無かった。
やはり訪れるなら12時以降が良いかもしれないが、
さすがに再訪問する余裕は無いのでまたいつか機会があれば。






天滝〜兵庫県大屋町

10時40分、天滝に到着。
大屋町には樽見の大桜を撮りに何度か来たことがあるが、
時期的のせいか天滝には訪れていなかった。
ついに憧れだった天滝まであと少しだが天滝までの道のりは片道1.2キロ、約40分かかり、
そう簡単に逢うことは出来ない。
ここの滝も百選となっており時期的に凄い混雑を予想していたが、
意外と思ったほどの混雑は無く、登山口附近の駐車場に止めることが出来た。
天滝までの道のりは平坦な道は無く、高低差約200mのアップダウンが続く道のりで決して楽ではなかった。
道中、大小の滝や色付いた紅葉を楽しみながら自分のペースを守りつつ進んでいく。





11時20分、最後の長い階段を上がりついに天滝とご対面。
登山口から出発して約40分とほぼ予定通りの到着。
時間帯的にほぼ天滝やその周辺に日差しが当たりまさに最高のタイミングで紅葉も綺麗に染まっていた。
広い場所が無いので休憩を兼ねて少し見学して帰る人もいれば
滝壺周辺まで行くことが出来るので岩場に腰かけて昼食している人も見かけた。
滝周辺は狭く行動範囲がかなり限られるので構図はかなり限られ、
また落差が98mとかなり大きいので近づくとかなり見上げて撮影しなければならない。
足場の悪い所で何とか撮影して念願だった天滝の撮影を終えた。
撮影を終えてもしばらく見ていたいが帰りのことも考えて下山。
帰りは下り道が多いので30分ほどで駐車場まで戻ることが出来た。



登山口の駐車場は広くないので止めれない車は周辺の路肩に止めている車も少なくは無い。
係員がいないので暗黙の了解かもしれないが、
観光協会のHPに1キロほど下ったところにあるレストハウスの駐車場からアクセスすることを案内していた。
さすがにレストハウスから天滝までの道のりは時間も体力もかなり必要かと思う。
レストハウスで美味しそうな弁当が販売されていたが、
時間が無いので次の目的地へと向かう。


逆水の滝〜兵庫県大屋町

同じく大屋町内の林道沿いに逆水の滝と羊ヶ滝があるので横行渓谷の案内板を目当てに林道を進んでいく。
色付いた氷ノ山はまさに今が見頃で日差しが当たってとても綺麗だった。
横行渓谷もじっくり散策してみたいが今回は道路沿いの景色を見るだけ。
道幅は広くないが綺麗に舗装されて走りやすかった。
ところが横行渓谷の終着地以降は未舗装で場所的にかなり悪路もあり、
正直言って新車だと走りたくない道のりだった。
本当にこの道であって居るのか進んでいくうちに不安になってきたが、
悪路の下り道を引き返すのも大変なのでとにかく前へ前へと下っていく。
下って行っても道は未舗装で周りの木々は綺麗に紅葉しているがとてもじゃないがそんな余裕は無かった。
このまま変な所に出るのではなかろうか。
いや車がパンクして身動きが取れなくなるのでは・・・そんな不安しか頭に過らない。


※道中は綺麗な景色

そんな不安の中でようやく逆水の滝の入り口が目に飛び込んで来た。
13時30分、天滝を出てから約1時間。
距離はそんなに離れていないのに相当時間がかかってしまった。
入り口から急勾配な道のりを10分。
最初は道なき道を下るのかと思ったら落ち葉で階段が隠れていただけだった。
氷ノ山も今は中腹が見頃なので落葉し始めている木々も多いようだ。
こんな辺鄙な所で遭難でもしたら大変だが、
こんな辺鄙な所でも車が1台止まっており何とも心強いではないか。
道があるのかないのかわからないような下り坂を下りると逆水の滝が見えて来た。
先客のカメラマンがあと数日早ければと言っていたが、まぁそれなりに綺麗で来た甲斐はあった。
しかも滝に日差しが当たり虹が出てまさに絶好のタイミングでもあったので急いで撮影。
落差30m、氷ノ山の幻の滝というだけあって素晴らしい姿で見応えがあった。
たださすがに機会があればまた来よう・・・という気にはなれず、
いつか未舗装の林道が綺麗に整備されることがあればまた訪れてみたい。



逆水の滝から林道をさらに下った所に羊ヶ滝の入り口があり、
ここもわかりずらい遊歩道を7分ほど歩いたところに滝がある。
落差が70mとかなり迫力があるが岩に切れ目に水が落ちている不思議な姿だが何か物足りない。
既に14時45分ということで滝の半分下は陰ってしまっていた。
足元も悪かったので撮影する気力も無く断念。
またいつか・・・は残念ながら無いかもしれない。


清林寺〜兵庫県上月町

林道を抜けて無事に国道29号線に出て来た。
この林道のせいでタイヤの寿命をかなり縮めてしまったかもしれないがパンクしなかっただけでも良しとしよう。
最後に西日が当たる芦津渓を予定していたがさすがに15時を過ぎているので今から行っても間に合わない。
仕方ないのでこのまま国道29号線を下って帰ることにした。
少し下った所に音水渓谷や原不動滝があり山の紅葉やススキも綺麗で、
事前調査で名称は知っていたが意外と綺麗な所なんだと思い、
いつか波賀から宍粟辺りを重点的に撮影するのも面白いかもしれない。
途中、道の駅で見かけた雲海がとても素晴らしかったがあれはどこなんだろうか。
同じく道の駅で上月にある清林寺の紅葉ライトアップのポスターが貼られていた。
そういえばそんなのがあったなぁ・・・と数年前に佐用町へ行った時のことを思い出した。
たしかあの時は花火の撮影があったので清林寺には寄ったがライトアップは見ていなかった。
それならせっかくだし時間帯的にもちょうど良いので寄ってみることにした。


※たまたま前を通った長源寺。寺院が新しかったので撮影はしなかったが紅葉の名所だった。

17時20分、すっかり薄暗くなったが何とか清林寺に到着。
紅葉の見ごろは少し早いように見えたがイチョウは今が見頃。
それよりも境内に並べられた皆田和紙行燈が展示されてとても幻想的だった。
拝観料は無料で特に撮影の規制なども無さそうで周りの邪魔にならないように撮影を始める。
紅葉のライトアップを撮りに来たつもりが思わぬ被写体に立ち寄った甲斐があった。
前回も思ったが清林寺の紅葉を撮るならやはり午前中が良さそうなので、
ここもいつか綺麗な紅葉を撮ってみたい。



17時50分、これで今日の撮影は終了。
長い1日だったが家までの道のりはさらに長い。
急いで帰る必要も無いのでこのまま上郡、備前経由で国道2号線に出て、
あとはずっと西に向かって走るだけ。
帰宅したのは22時頃であと3時間すれば丸1日寝ていないことになり、
さすがに次の日は珍しく9時まで目が覚めなかった。





写真館 二千年一夜